短編小説
ある夫婦が言いました。 「子供が欲しいです。 私たちももう結婚して3年、年齢も30を超えました。 そろそろ子供を持つのが当たり前の時期です。子供を授けてください。」 神は返しました。 「子供を持つのが当たり前の時期? 誰がそんなことを決めたんですか…
あるところに目がひとつしかない猫がいた。 産まれて初めて目が開いた時、すでに誰もいなかった。 他の猫に会ったこともないし、もちろん親にも、兄弟にも会ったことはない。 そのため、自分が猫と呼ばれる生き物であることも知らず、まだ十分に歩けないよう…
2021年12月。 上空に大きな大きな人型の存在が現れた。 大きなモノを見ると人は自身の小ささを痛感する。それは海であったり、富士山であったりする。 その人型の存在は海や富士山を遥かに超えて大きかった。映画で見るゴジラなど、到底及ばない。 あまりの…
EM10Mk2「今日もお散歩楽しいね!!」まめ「あ〜、、、うん」 まめさんの元に来て早5年… 最近のまめさんは…なんだか冷たい 僕を外に連れ出してはくれるけど なかなかカバンから取り出してくれないし 前みたいに頻繁に着せ替え(レンズ交換)もしてくれない …
真っ暗だ。自分の家のにおいがする。喪服のまま僕は疲れて寝てしまったのか。1日が早送りで進んだんだ。 どんな1日だったのだろう。 明日菜は肉体さえもこの世から無くなってしまったのか。違う。肉体が焼かれずに残ったところで明日菜は戻っては来ない。二…
妻の明日菜が2日前に死んだ。 金曜日で仕事が遅くなり、帰り道に最寄り駅付近の大通りで交通事故に逢った。数人が車に引き倒され、彼女は打ちどころが悪かったらしく、病院に運ばれる前にはもう息をしていなかった。 事故に逢った歩行者6名の内、死んだのは…
私は犬である。 「犬」というのは表向きな名称であって、正直なところ、実を言うと、この地球の侵略者なのだ。これは誰にも言ってはいけないことだ。人間にはもちろん、猫にも言ってはいけない。 私はさも飼い主に懐いているように見せている。飼い主が帰宅…
8時5分発福岡行きの飛行機に間に合うよう、5時ちょうどに家を出た。普段は7時すぎに起床し、朝日がカーテンから差しているのだが、さすがの5時なのでまだ陽も昇っておらず、夜中と同じ暗闇が広がっていた。 修平はその光景にすこし恐怖を覚えた。自分はすで…
久美子は一人暮らしの家から歩いて5分ほどの「喫茶 ウツボ」のコロンビアコーヒーが好きだ。基本的に砂糖もミルクも入れない。深い苦味とさわやかな風味が口の中を駆け抜けると、なんとも言い難い開放感に包まれる。濃い黒色のコーヒーの水面を覗くと、どこ…