あるところに慢性的にストレス指数が高い男がいた。
彼は至って普通であり、特段世の中に不満もないし、自分の見た目にも多少の自信がある。
しかし、物心着いた頃からストレス指数が常に90近いのだ。
彼はストレス指数が高いことで、大いに損をしてきた。
子供の頃から周りには腫れ物のように扱われた。
ストレス指数が高いからなにか事件を起こすんじゃないか、何かが起こってからでは遅いからあの子を転校させたらどうか、など心無い保護者たちの言葉に子供ながら深く傷ついた。
そんな状況が続き、よく転校を繰り返していたため、友達も出来なかった。
なんとか見返してやろう!と勉強を人一倍、いや百倍ほど頑張って国内1位の偏差値を誇る大学に入社した。
大学では、やはりストレス指数のせいで友達は出来なかったが、法律を勉強し、ついに司法試験に合格、晴れて弁護士となった。
「今までストレス指数のせいで散々な人生だった。だが、法律は絶対的な存在だ。法律には、扱う人間のストレス指数など介入する余地はない。
法律は至って冷静で、理性的で、個人の価値観に左右されることはない。
法律を学んだものであれば、仮にIQ500の知識人でも、高卒のフリーターでも同じ決断になる。
もうストレス指数を気にしなくていい生活が出来るんだ。」
男はやっと陽向に出た気がしたのだった。
想像通り、いや、想像以上に男の人生は上手く行き始めた。
仕事は出来、頭も切れるため、最初はストレス指数が高いことを怪訝に思っていた同僚達も、何故彼が?と思い始め、人生で初めて人の輪の中に入り、他人に認められる感覚を知った。
そうすると彼のストレス指数も日に日に下がっていった。
今までだいたい80後半だったが、最近では80を下回る日もあり、調子がいい日の最高は72だった。
彼はだんだんと普通の人間の生活を送れるようになった。
人生で初めて彼女も出来た。
法律事務所の受付で毎朝顔を合わせる同年代の女性で、入門時のストレス指数確認をしていたのが彼女だった。
なので、彼女は男のストレス指数が日に日に下がっていくことを間近で見ていた。
男は人生で1番の幸せを味わっていた。
3年が経って、男のストレス指数は60程度に下がっていた。
仕事も順調に行き、思い切って彼女にプロポーズをし、更なる幸せを手に入れた。
しかし、雲行きが怪しくなった。
彼女の両親が「ストレス指数が50を超える人間と結婚させることは出来ない」と言い始めたのだ。男のストレス指数はまだ60前後だった。
より身近な人間にこそ、基準は厳しいものになる。
世間一般のストレス指数の平均が50なので、今後深く関わり合う人間には平均以上であって欲しい、という考えは理解できるものだった。
男は噂話で聞いた、「ストレス指数が1の盲人」を思い出した。
そのストレス指数が1の盲人は世間からは離れ、山奥に1人で暮らしているという。
その盲人に会えば、ストレス指数を下げる方法を教えてくれるかもしれない。
なんとしても彼女と結婚をし、本当の幸せを掴みたい男は、決心してその盲人の元を訪れた。