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まめのカメラブログ

カメラが好きな八王子在住 28歳のブログ

【短編小説】人類3割減

2021年12月。
上空に大きな大きな人型の存在が現れた。
大きなモノを見ると人は自身の小ささを痛感する。それは海であったり、富士山であったりする。
その人型の存在は海や富士山を遥かに超えて大きかった。映画で見るゴジラなど、到底及ばない。
あまりの大きさに、人は自身の小ささではなく生命の危機を感じた。


その人型の存在は、見るからに神様だった。あまりにも神様のような容姿すぎて、それを見た人間は一瞬で神様が地球に現れたことを理解した。
長髪の白髪に、神官のような白い布を纏っており、太陽の位置に関係なく後光が差して眩しいほどだ。


その人型の存在、神様は、全ての人間に見える座標に、同時に現れた。
東京、ニューヨーク、ロンドン、パリ。
全ての国の、全ての人間が確認できた。

神様は人間全員に聞こえる音で話し始めた。



「地球を作ってから数百億年という時間が流れた。数百億年、この地球を見ていた。
もう地球は限界を迎えた。
人間を作ったのも私だが、その人間がここまで地球に影響を及ぼすとは思いもしなかった。
結論から言おう。
人間の数をランダムに3割減らす。
時折、天変地異を生じさせて人間の数を調整していたが、人間の技術革新はここ数百年で目まぐるしい成長を遂げた。
天変地異さえも克服する段階に至っている。人間は増え続ける一方だ。
だから、3割の人間を消滅させる。
選定基準などは持ち合わせていない。道徳や法律などは人間が社会生活の中で創造した、人間の価値観ありきの判断基準であり、私は一切の干渉をし得ない。
3ヶ月後に実行する。」




人類は初めて神の存在を認めた。近隣の太陽系に生命体を確認できる惑星が地球だけなことも、産まれる前はどこにいて死んだらどこに行くのかも、クジャクがあんなにも美しいことも、人間がなぜこれほどまで突出して文明を発達し地球を支配できているかも、全ての疑問、すべての矛盾に答えが出た。
神様はいた。人間は全てを理解した。自分たちが地球上において自力で繁栄した特別な存在ではなかったということを悟った。


神様は言付けのあと、フッと姿を消した。神様の言付けは「黙示録」と呼ばれることとなった。

テレビ各社は黙示録の映像を繰り返し繰り返し放送し、考古学者や僧侶などを招いては神様の存在は確実となったこと、無宗教者は今すぐにでもあの神様に信仰すべきだと熱弁を振るった。

しかし3ヶ月後に人類の3割は消滅する。神様は「ランダムに」と言っていたが、神様を心の底から信じる者を消滅させたりはしないだろう、という憶測が世の中に蔓延し、神様を信仰するものは増え、各地に祭壇が建てられ、朝から晩まで信仰者の参拝で列が途絶えることはなかった。


ある社会学者の発言から派生し、一時的に人間社会に法律は無くなった。警察もなくなった。命の選別が認められたのだ。

「神様は3ヶ月後に人類の3割をランダムで消滅させると仰った。
だが!3ヶ月以内に人類を3割消し去ったとしたら。
善良な市民が死に怯え、最悪な結果として消滅することがなく、悪質な犯罪者が生き延びる、なんてことはなくなる。
我々は神様が手を下さずとも、人類を、地球を守るべきだ。」



この発言から世界は一変した。
人間削減活動が始まったのだ。

まずは刑務所の犯罪者を刑の重さに関わらず一斉に殺害することとなった。世界中の刑務所から囚人は0人になった。
しかしそれでも総人口の0.01%にも満たない。
あと29.99%の「不要な命の選別」が始まった。


次に高齢者が対象となった。
長く生きているのだからもう十分だろう、というわけだ。
70歳以上の老人が選別の対象となった。
各国で「人間選別区域」が設けられ、日本では北海道全体が選別区域に置き変わった。
札幌市中心部には巨大な焼却炉が建設された。
選別対象となった老人は北海道に収容され、アウシュビッツと同様、毒ガスで殺害され、一人一人の墓など建たず、焼却された。
老人を削減してもまだ人類の15%程度しか削減されていなかった。
あともう15%削減しなければならない。
神様が現れてからすでに2ヶ月が経過していた。


黙示録から2ヶ月と1週間経ったころ、
自然と人類のもう5%が削減された。
制度としての人間削減が3ヶ月以内に目標とする3割削減を実現できないのではと批評する声が高まり、
各々が各々の判断基準で身近な人間を殺し始めた。
あいつは生きている価値がない、
あいつは迷惑ばかりかけるから死んで当然だ、
あいつが嫌いだ、
あいつが憎い。
ある国は過去に敗戦した国に対し原子爆弾を投じた。数億人の死者を生んだ。


神様が現れてから2ヶ月と3週間が経った。


人類は半減していた。
あらゆる制度、削減基準に則った対応をしても15%しか減らなかった人類は、身近な憎いやつ、嫌いなやつを排除するという行為の連鎖により目標を上回る成果を見せた。


テレビが人類の半減を報じても、人類の減少は止まることはなかった。すでに労働や社会環境は崩壊していた。自分の命を守るために必死で、すでに3か月前の人間社会は存在していなかった。



黙示録から3ヶ月が経った。



4ヶ月が経った。

半年が経った。



神様は現れなかった。
人類の3割が突然消滅することもなかった。

それでも人と人の争いは終わらない。
国と国は原子爆弾を撃ち合い、すでに生命が住める環境ではなくなっていた。
人類は4割、3割、2割と減っていき、
黙示録から30年が経った頃、人間は絶滅した。


人類のいなくなった地球。

すると突然、神様はまた上空に現れ

こう言った。






「やっべ、忘れてた!笑」