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まめのカメラブログ

カメラが好きな八王子在住 28歳のブログ

【短編小説】吾輩は犬である

私は犬である。 「犬」というのは表向きな名称であって、正直なところ、実を言うと、この地球の侵略者なのだ。これは誰にも言ってはいけないことだ。人間にはもちろん、猫にも言ってはいけない

私はさも飼い主に懐いているように見せている。飼い主が帰宅すれば足元をグルグルと回り、飼い主が布団に入ればトコトコと近寄り毛布に潜り込む。 これは全て演技であることを人間たちは知らぬだろう。我々「犬」がある日を待ち、その日までキュートで可愛くプリティな小動物を演じていることに気づいてはいない。 その日が来れば、私のこの鋭い犬歯が、人間の喉元に噛みつき、食い込み、すぐさま布団を赤く染めるだろう。

我々は人間を滅亡させるべくこの地球にやってきた。当時人間たちには今ほどの知恵はなく、火を起こし、猟をし、穀物を育てていた。しかし人間の文明の発達は著しく、我々犬には手に負えぬほどの武力を備えるまでとなった。

人類滅亡の任を受けた大先祖様たちはそんな人間を観察し、数の面でも、武力の面でも苦戦するだろうと察した。 そして、人間の生活に潜り込み油断させたところを、文字通り寝首を搔く作戦を企てたのだ。

それから我々はあえて人間の支配に下り、何千年という辛抱を超え、ようやくその日が近づいてきたのだ。人間が我々に大いに心を許し油断しきった日。それが我々「犬」の報復の時だ。隣の家の「犬」──大型でジョンと呼ばれている──とも昼間密会をしたが、一刻も早く飼い主の寝床に襲いかかり噛み付いてやりたいと息巻いていた。

先述の通り、我々「犬」は地球外の生物であるから、地球での科学的な理屈は通用しない。人間は気づいていないが、我々のDNAにはこれまで我々「犬」の歴史・記憶全てが詰まっている。全ての祖先の記憶を自身の体験のように振り返ることができるのだ。

そして我々「犬」は非常に耳が良い。これはこの地球上での生存競争に優位であるためだが、もうひとつは我々が待ちわびる「Xデー」の情報を聞くためである。これは人間や猫どもにも聞くことの出来ない特有の高周波の音である。我々はそれをキャッチしXデーが近いことを知ることが出来る。

嗚呼、遂にこの時が訪れるのだと思うと身震いしてしまうほど気分が高揚するものだ。私はまだこの地球に生まれ落ちて5年ほどであるが、人間には多くの羞恥を受けた。

木の枝をくわえては渡し、投げられ追いかけ、またくわえては渡し、また多くの人間は「オテ」と言い我々の前足をなんとか自分の掌に乗せようとしてくる。 そんな屈辱の日々とももうおさらばなのだ。この時のためにあらゆる屈辱に耐えてきたのだ。ようやく我々の悲願が達成されようとしている。

それにしても猫どもは相変わらずスカしていやがる。かつてはともに人間を滅亡させるべく同盟を組んでいたが、自由気ままで気分屋の猫どもは人間との共存を選んだ。我々の計画は猫どもにも知られてはいない。我々の目的は人間の滅亡であるから、猫どもとの無意味な衝突・リスクは避けるという賢明な判断を大先祖様たちがしたのだ。

夜、あの高周波をキャッチした。今日があの待ちに待ったXデーなのだと言う。喜びに跳ね上がった。 すでに我々「犬」は人間の傍らに配置している。何千年という努力により我々を飼育している人間───正確には飼育していると思い込んでいる───は全人口の95%を超えた。我々の計画通りにことが運べば、今日、人間の95%はたちまち絶命する。残り5%はゆるゆるとじっくり追い詰めトドメを刺せばいい。

夜中の2:00、作戦が実行されるという情報をキャッチした。時刻は23時を過ぎており、飼い主もあくびをしながら布団へ向かった。呑気なものである。2時を回れば5%しか生き残らないというのに。

2時前、全ての「犬」が配置についた。 私もゆっくり、ゆっくり飼い主の枕元に近づく。喉元を凝視する目が充血する。ヨダレを抑えきれない。

時計が2:00を指した。

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