まめカメラ

まめのカメラブログ

カメラが好きな八王子在住 28歳のブログ

【自作寓話】忙しない男

ある街に毎日が充実した男がいた。



男は朝起きると庭へ向かい、斧で薪を割った。

必要最低限の薪を割ったあと、

手際よく朝食を作り、

水と一緒に流し込むようにすぐ食べ終えた。

今度は机に向かい小説を書き、

次はアトリエで絵を描いた。

街をランニングで1周し、気持ちいい汗を流し

風呂に入りながら読書をした。




昼食を取ると農場へ向かい野菜を収穫し

家に戻って大量の野菜を洗い、ぬか床に付けた。

飼っているトカゲの脱皮具合を観察して記録し、

またアトリエで絵を描いた。




夕方には近所を散歩し、

植物から春の訪れを感じた。




夜は薪を焚いてシチューを作った。

読書をしながら風呂に入ったあと、

また机で小説を書いた。




布団に入り、
頭の中で「なにかいい儲け話はないだろうか」と

色々と思考を巡らせ、

気づくと男は寝ていた。





次の日も男は起きてすぐ

庭で薪を割っていた。



通りがかった隣人が話しかけてきた。



「やぁ。精が出るね。

そうだ、聞いたよ、

君はとても毎日が充実しているそうだね。

料理を作り、本を書き、絵も描く。

運動もし、知識を蓄え、生き物を愛でる。

多趣味で、なんともうらやましいよ。

さぞ、生きていることが楽しいだろう」






「違いますよ、お隣さん。

生きていることが退屈で退屈で仕方がないのです。

何もせずにただただ時間が過ぎることが

恐ろしくて仕方がないのです。

そこらへんの虫のように、

ただ漂いエサを探すだけなら

なんと幸福なことでしょう。

私は暇を潰し続け、

死を待っているだけです。

うらやましいですか?」