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カメラが好きな八王子在住 28歳のブログ

【読書感想】生まれてこない方が良かったのか?

衝撃的なタイトルである森岡正博
生まれてこないほうが良かったのか?
の感想文



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本書は哲学の分野で博識な森岡正博さんが
「人間は生まれてこない方が良い=反出生主義」という思想を「誕生肯定=生まれてきて良かった」という考え方により突破したいという内容だ。

反出生主義についてはベネターの著書が有名で、ネットでもたくさん調べられる。なかなか理解されない思想ではあるが、簡単に言うと

生まれてしまえば幸も不幸も味わうが
本当に幸せになれるかは分からない(リスクが伴う)
わざわざ無からこの世界に招くのって本当に善いこと?
生まれてきて良かった!と手放しには喜べない…


というのが反出生主義だ。


ネガティブな考え方だと思う人が大半だと思うし、誰しも「自分たちの子供は自分が絶対に幸せにする!」「産んでくれてありがとうと言ってもらえるように精一杯育てる!」と新しい命に肯定的であろうと思う。
その子供が障害を持って生まれたり、学校でいじめにあったり、受験に失敗して挫折を味わったり、そんな可能性をメンタル強めにして脇に置いてしまう。



マイノリティである反出生主義を「誕生肯定」という角度から考察することで突破しようとした本書だけど、正直な感想を言うと

何も…分かってない…かな…と思う。


まず、
生まれなければ良かった…と考えることについての見解は

「自分がこの世界にいないということを考える時、すでに自分はこの世に存在してしまっているのだから、存在しないなんてことを考えることはできない。考えている時点で存在しているから、存在しないという考えはおかしい。だから、出来もしないことを考えないで今ある生を謳歌しなければならない」



えぇっ…


哲学の世界からしたらそうなんだろうな…

でも心情が置いてきぼり…かなぁ


この見解を読んで

「そっか!前向きに生きなくっちゃ!」

と考えるような人いるのだろうか…



違うじゃん

生きていればたくさん嫌なことがあって、
街中で人と人が怒鳴りあってたとか、
自慢ばかりする人に合わせてたらすごく疲れたとか、
もう少し鼻が高ければ良かったなぁとか
そんな些細な絶望を人間だけが味わえる。

もちろん楽しいことも幸せなこともある。たくさんある。
でもそれ以上にノイズや絶望もある。

楽しいだけじゃないけど
悲しいだけでもない。

それが人間の人生だけど


わざわざオススメするほどかなぁ
と思うのだ。

たしかに、生まれてきてしまったものは仕方ない。仕方ないから精一杯生きようという森岡正博さんの意見には大賛成だ。
ただ、もしこの世に生まれた子供にはそれは言えない。
だって「仕方ない」状態に存在させたのは親である自分だから。
もう謝るしかない。

人類の繁栄だとか、
子供が増えないと国家が回らないとか、
結婚したから次は子供って普通だからとか、
親が孫の顔見せろってうるさいからとか、
友達が子供産んで幸せそうだからとか、

そういうの固定概念を一切排除した時に
本当に「いつか確実に死ぬ生き物」をわざわざこの世界に存在させたいか。
死の恐怖と、生の閉塞感を自らが命に与えることは善いのだろうか。


本書では反出生主義についても詳しく説明されている。
目からウロコだったのは仏教の成り立ちからすでに反出生主義の思想が生じていたことだ。
出家、という仏教の行いには、
二度と人間として生まれ変わらないように、「生きる欲望」を排除するという目的がある、らしい。

四苦八苦と言うが、生きる上で感じる苦悩、苦痛、それらを輪廻転生の輪から外れて二度と同じ苦しみ──人間に生まれ変わらないように​──を味わうことがないように、煩悩を捨て、人間であることを捨て餓死する。

そんな昔からある反出生主義が根付かないことに疑問を感じてしまう。



「シミュレーション理論」といって、この世が高度にプログラミングされた電子世界だと言う理論もある。
VRや3D技術が発達した今、その理論も完全否定できない。誰かが今この瞬間、電源を切ってしまったら、この世界はプツンと無くなる。
なぜ宇宙ができたのか、なぜ地球が生まれたのか、なぜ恐竜や猿が蔓延っていた時代から高度な知能を有した人間が誕生したのか、死んだらどうなるのか、わからないことばかりの不安定過ぎるこの「世界」に、確固たる自信を持って生命を生成することなど僕のにはできない。


本書はあくまで反出生主義への「意見提示」というスタンスなので完全論破できる内容ではないけど、人類が培った哲学という道徳学問の観点から多角的に分析しており一考の余地はあるけれど、マイノリティである反出生主義という思想を否定できていない。


僕も多くの人たちのように
子供可愛いから欲しいーと安直に考えられればどれほど生きやすいだろうと思うけど
どうにも納得ができず本書を購入するに至った。
多少の救いを求めた。


だが、
仮に子供が
「なぜ僕は死ななくてはならないのか。死がとてつもなく怖い。死にたくない。自分がいつか消滅することを受け入れられない。」と言った時、
僕はきっとこう言うだろう。


「本当に申し訳ない。
君をこの世界に呼んだのは他でもない僕であり、同意無く君に生と死を与えた罪は蔑ろにはできない。
君をこの世に招かなければ、眠れぬほど死を恐怖する夜を与えなかったし、40年以上の労働を強いる事もなかった。
僕の自己中心的な欲望だけで、子供が欲しいという願望だけで、君という生命を誕生させてしまい、本当に申し訳ない。」